バーンロムサイ

 私は平成25年11月22日から5日間,札幌真駒内ロータリークラブの会員として,現地のタイ・チェンマイロータリークラブの会員とともに,タイ北部のチェンマイにあるHIVに母子感染した孤児たちの生活施設「バーンロムサイ」を訪問しました。ロータリークラブとして施設に対して何らかの支援ができないか,現状を理解するための訪問です。

 

 「バーンロムサイ」とは,「菩提樹の木」という意味です。この季節でも25度を超える暑さでしたが,敷地の中央の大きな菩提樹が涼しい影を落としておりました。敷地はとても広く,多くの樹木の中に子供たちの生活棟のほか,図書館,集会棟,職員の生活棟が点在しております。また,子供達に対する偏見がまだ強く,普通の子供達と一緒にプールには入れないことから,立派な25メートルプールがありました。施設では運営資金を得るため縫製品を制作しており,このための大きな工場も建っています。さらにゲストハウスの運営も手掛けており,日本円で一泊1万2000円ほどのログハウスが6棟ありました。比較的涼しくなるこの季節は予約でいっぱいということです。縫製場は,HIVに感染した女性,またタイでは就職の機会が少ない山岳民族の女性たちの雇用の場となっており,ゲストハウスはミャンマーの少数民族で避難民が多いタイヤイ族の雇用の場であり,自立を目指す子供達の職業訓練のお場でもあるということでした。プールもそうですが,建物の多くは企業や慈善団体からの寄付により建築されたものです。

 

最初に土曜日の午前中に訪問しました。大きな子供達はバスで近くの学校とのサッカーの練習試合に出かけており,あたりは静寂につつまれておりました。小さな子供達は集会室で先生に絵本を読んでもらっており,くったくのない笑顔が印象的でした。開設当初,子供達は近くの小学校や中学校への登校も拒否され,施設の外には出られない状態だったそうです。しかし,次第に理解が深まり今では子供達が外でサッカーの試合ができるようになり,また近所の子供達が施設に遊びに来るまでになったということです。

 施設はNPO法人バーンロムサイジャパンが経営しており,代表は日本人の女性2名です。民間の施設として1999年に設立されております。現在は2歳から17歳まで30名の子供達が共に生活しています。子供達は18歳になると施設から出なくてはなりません。職員は22名です。

 開設当初はHIVに対する効果的な治療法がなく,最初の3年間で10名の子供達がエイズを発症して亡くなったそうです。しかし,現在はエイズの発症を抑える薬の開発が進み,薬を服用することで確実に成長できるようになりました。子供達は毎日2階,一生薬を飲み続けなくてはなりません。薬代は月2000バーツ(6000円)ほどかかるそうです。

 施設は,エイズ孤児のための生活施設として開設されましたが,タイ国内のエイズ患者,HIV感染者の減少を受けて,現在はエイズ孤児だけでなく,貧困や麻薬などの問題により両親と暮らせない子供達も共に生活しております。

 施設の主な目的は,子供達が一生飲み続けなくてはいけない「抗HIV薬」の安定的な供給と,子供達の健康管理,自立支援,生活環境の向上です。

 施設では子供達の生活費と薬代の補充のため,縫製の民芸品の販売,ゲストハウスの売上のほか,今後はオーガニック野菜の栽培を目指しているとのことです。なお,子供達の薬代と施設の修理代は,一部国や民間団体から補助を受けています。

 

 冷房などはなく窓を開け放した図書館の集会室で代表の女性と2時間ほど懇談しました。しっかりとした理念を持ち,施設の運営にすべてを捧げておられます。日本人の考えを押し付けるのではなく,子供達がタイ社会の一員として施設から飛び立っていけるようにできるだけの手助けをしたいだけですと謙虚に語っておられました。説明では,2011年3月11日に発生した東日本大震災以来,日本からの安定的な寄付収入は劇的に減少したということです。自立のためのゲストハウスなどのプロジェクトは軌道に乗りつつあるが,それだけで施設を賄うにはまだまだ時間がかかり,多くの方の善意がなければやっていけないと訴えます。子供達が元気に成長できる環境が整ったからこそ,継続的な支援が必要になると語る代表の言葉には力がありました。

 

 2日後の夕方,再度施設を訪問しました。あたりは真っ暗です。足元を照らす小さな灯りを頼りにプールの横のベンチに座ります。満天の星空。聞いたことがないようなさまざまな鳥や虫達の声が闇の向こうからひっきりなしに聞こえてきます。そこへ遠くに明かりを見えていた棟の方から子供達の歓声が近付いてきました。子供達と一緒にコムロイをあげる機会を職員が作ってくれたのです。コムロイとは,白い紙でできた円筒形の灯篭です。直径は60センチほど,高さは120センチほどです。下は竹製の輪で中央に灯油を染み込ませた藁があり,これが燃えると熱気球のように上昇します。子供達と5組に分かれて一緒に両手で輪を握ります。火を付けて1分くらいで手元が熱くなってきました。みな笑顔です。声を掛け合いながら一斉に手を離します。コムロイはゆっくり舞い上がり,どんどん上昇していきます。どのくらいの時間が経ったのでしょう。コムロイが星の中に消えてゆくまで,私たちは子供達と一緒にじっと夜空を見上げておりました。

 

(弁護士 山田 廣)

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